むかし精神的に結構まいってしまうようなことがあって、そのせいで私は普段からイライラとしていた。しかも当時は親と住んでいたこともあって、なんとかおさまって迷惑をかけずに済まないだろうかと思っていた。
そんな折りにふとテレビを見ていたら番組で漢方薬を取りあげていた。それまではとくに興味はなかったのだけれど、見ているうちに「市販されている薬の中には私のような症状に効くものもあるかもしれない」と思いはじめたのである。(ただ私はその手の専門家ではないので真に受けないでほしい。)
私はずいぶん興味深そうにテレビを見ていたのだろう。母にそんなに面白いかと聞かれたので、「最近はひどいからひとつ試してみたい」と言った。すると母は私を薬局まで車で連れて行ってくれると言う。それはありがたいと思いつつ、やはり母も気にしていたのかなと思った。
薬局にはいろいろな種類の漢方薬が置かれていた。薬局の人に相談するのもなんだか気が引け、私は自分で探すことにしたので少し時間がかかった。母が私のところにやってきたのは、ちょうど私がどの薬を買うか決めたところであった。「あった?」と母。私が「これにする」と言ってパッケージを手に取ると、母は少し驚いて私の顔を見た。なにが不思議なのかと母の言葉を待っていたら、それはこうだった。「ダイエットの薬じゃなかったの?」
この時以来、私は親は子どものことがよく分かるなどという言説は必ずしも正しくないと確信している。